第一話 イケブクロのネプチューンマン


 宇津田篠雨。東京受胎を生き残って早9時間。

 ボルテクス界は俺にぴったりの陰気な世界だと思ったら、出会う奴出会う奴気さくに話しかけてくる。鬱だ。リアクションに困るので一切口を開かないでおく。お使いを頼まれる。お構いナシかよ。

 他人の言うことに従い続けていたらイケブクロまで辿りついた。シンジュク→ギンザ→イケブクロ。何も考えなくてもこれだけの距離を歩けた事に、ある意味感銘を覚える。だがボサっと突っ立っているわけにはいかない。実は体力が厳しい。身体が赤く点滅して気持ち悪い。俺の回復にしか使ってないのに、仲魔のMPも限界だ。早く回復の泉に向かわねば。

 とりあえず、一際目立つビルに向かってみる。すると入り口に、赤くて図体のでかい、オニのような悪魔が陣取っていた。今までの旅でフレンドリーさを身につけていた俺は、気さくに彼に話しかけてみることにした。

オニ「ここはマントラの陣地じゃあ、ニヒロのスパイはコロース(意訳)」

 言うや否や、金棒を振り上げて襲い掛かる悪魔。もといオニ。断じてスパイなどではないことを釈明したかったが、俺は回復の泉に駆け込みたい気持ちで一杯だった。相手をしている暇はない。彼を、駅トイレの清掃中看板の様に蹴り飛ばしてビル内に進入する。ふー、見慣れたマークを発見。俺は急いで個室に駆け込んだ。

 用(全回復)を済ませて水場を後にする。気がつかない間にレベルが22を超えていた。力が30を越すまであと僅か。目標が間近に迫り、俺はかつてないやる気、むしろ殺る気を感じていた。イケブクロはさっき見かけたようなオニで一杯だったので、獲物には苦労しなさそうだ。
 いざ血の雨を食らわん。……そう思ったのだが、好戦的なのは最初の一匹だけだった。後の連中は「殺すぞ」と脅してくるものの、実際に手を上げて来るような気配は一切ない。口先だけの連中だ。俺はむなしくなった。鬱だ。

 根性の足りないオニたちは諦めて、ビル内を闊歩している悪魔たちを手当たり次第に狩り殺す。そういえばマントラもニヒロも「マガツヒ」というのを集めているらしい。俺もマガツヒを集める方法を知っていたら、こいつらから搾り取れたのではないだろうか。つくづく自分の要領の悪さが恨めしい。が、知らないものは知らないのだから今悩んでも仕方がないか。ここはマントラ軍の本営らしい。聞き出すチャンスはいくらでもある。俺は怒りの矛先を祐子先生にシフトして、心の平静を保つことにした。

 祐子先生……まてよ。俺は何故イケブクロにやってきたのだったか。そうだ。ニヒロ機構にいる先生と会うために、マントラ本営を訪ねてきたのではないか。こうしてはいられない。マガツヒの謎と先生に迫るためにも、マントラ軍とやらに渡りをつけなければならないな。俺は早速マントラ軍本営を尋ねてみる事とした。

 マントラ軍本営は実に立派な門構えをしていた。建物自体もやたらに大きく、見上げなければ視界におさまりきらない。サンシャイン跡地でも利用しているんだろうか。

 ここに来るまでに分かった事は、マントラ軍が「力による支配至上主義」を唱えているということだ。悪魔の間でも支持がそれなりにあったから、このような立派な本営を持つに至ったのだろう。面白い。ここならきっと俺を満足させてくれるに違いない。

 早速突撃で破ろうと扉の前に立つと、中から声が聞こえた。男が言い争っているような声だ。これは……勇か? 断定は出来ないが、お世辞にも穏やかな雰囲気とは思えなかった。
 このパターンでろくなことがあった試しがない。毎度酷い目に遭う俺はすでに、「扉の向こうに気配があったらまずセーブ」という行動パターンを確立していた。
 回れ右してターミナルへ向かう俺。ついでに少々うろついて仲魔のレベルを上げたりもする。モムノフのスカウトに成功して有頂天になったあたりで気づいた。

 かれこれカグツチが30回ほど満ち欠けした様に思える。
 ……しまった。

 手遅れだったらすまない、中の人。申し訳なさを込めて静かに本営入り口のドアを押した。
 喚く男の声が響く。声の主の姿を確認する事が出来た。やっぱり勇だったか。
 勇はネプチューンマンとロビンマスクを足して二で割ったような悪魔と揉めているようだ。俺が言われたようによそ者と言う事で因縁をつけられているらしい。
 まさかさっきからずっと口論しているのか? 凄いな勇、良く無事だった。口先だけで獰猛な悪魔から逃れつづけるとは……俺は勇の才能に驚くばかりだった。が、数秒後にはネプチューンマンのハンマーが勇にめり込む。
 当初の予想通りの状況になった。鬱だ。

 ネプチューンマンは勇からマガツヒを搾り取ると、今度は俺に向き直った。サイズの関係上、俺は奴の股間を目の前に見上げる形になった。股座を覆う布のきわどいラインが視界に飛び込んでくる。すげえ、ハイレグだ。ネプチューンマンの声が頭上から響く。しかし俺の頭の中は眩しいVラインで一杯で、言葉の入る隙間は無い。

 奴の名が雷神トールと言い、ネプチューンマンでもパーフェクト超人でもなくマントラ軍の副司令なのだと気づいたのは、既に牢獄に放り込まれた後だった。

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