第五話 ウツダは はじめてほめられた


 バイブ・カハに何度も叩き落されそうになりながらも最上階に到着。そこには一目で首魁の居室だと分かる、巨大な門がしつらえてあった。
 さて、いよいよ中にいるゴズテンノウとやらに直談判しなければならない。
 ニヒロ機構に進入する手助けを貰い、勇を解放してもらう。
 ……果たして聞き届けてもらえるのだろうか。こちらには提供できるものが限られている。いざとなったらトールの時のように、力で解決を図るしかないだろう。

 俺は覚悟を決めて、扉の向こうへと進み入った。

 門をくぐると、そこは薄暗い空間。かがり火の明かりが照らし出す天井は高く、奥行きのあるホールであることが分かる。
 突如、不気味な音が空気を震わせた。
 おおおお……と、何者かが声を発している。対面の壁に備え付けられた祭壇、そこから聞こえているのだ。
 俺はゆっくりと歩いて、祭壇の様子が確認できる位置まで近づいていく。

 壇上に、一人のマネカタらしき姿が見えた。声の主は彼に違いない。マネカタは近寄る俺など意に介さず、忘我のままに何かを唱えつづけており、今まで見てきたマネカタ達とは異質なものに思えた。

 てんちにきゆらかすは、さゆらかす、かみわがも……

 マネカタの言葉が意味不明なのは今に始まった事じゃないが、無意味な音の羅列に聞こえるそれは、不思議と神秘的な呪文の様に聞こえた。
 彼は一体何にこの祝詞を捧げているのか。
 自然と俺の視線は、マネカタの向こう、祭壇の奥へと移る。
 ……そこには、背後の壁一面を覆い隠すほどの、巨大な神像。猛々しい軍神を象った像が、圧倒的な存在感を持って座していた。
 あまりの大きさと迫力に、思わず息を呑む。
 その上背は天井に届く高さで、俺は頭上から見下ろされているような気分になった。
 ゆらゆら踊る炎に照らされてか、神像の双眸が不気味にギラついて見える……だが、それは気のせいなどではなかった。

 「……良くぞ来た、大いに歓迎しようぞ」

 ビリビリと腹の底まで響くような声。それは確かに眼前の神像が発したものだった。

 わが目を疑う俺を前に、巨像は自らをマントラの長・ゴズテンノウと名乗る。
 俺の目はその巨体に釘付けだ。あのトールがNo.2に甘んじていたというのが良く分かった。こいつをぶっ倒して言うこと聞かせようと思っていたなんて、笑い話にもなりゃしない……

 しかし、俺の萎縮っぷりとは裏腹に、ゴズテンノウは偉く上機嫌な様子でいる。闖入者相手に成敗してくれようとか、そういった気配はまったく見せない。それどころか歓迎すると言ってのけたのである。
 俺は相手の真意を測れず、ただただ部屋を震わす声の中じっとしていた。

 すると奴は、俺の戦いぶりを褒め称え始めた。

「その方の戦いぶり見事であった、猛き悪魔の出現は喜ばしいことである」

 ……ビル内の事は全部見られてたのか?
 屋上でバイブ・カハにやりこめられているのも目撃されてるのか?
 勘弁して欲しい。あれから40体近く相手に逃げられたなんて知られてたら生きて行けない。
 身投げでもしたくなってきた。エレベーターを降りたところに調度のいい物見台が有ったのを思い出す俺。

「というわけで褒美だ、受けとれい!」

 ゴズテンノウがその手を振るう動作をすると、直後、熱っぽい感覚が俺の全身を包んだ。力が湧きあがるのを感じる。どうやら、今よりも多くの仲魔と契約できるようにしてくれたらしい。
 流石はマントラ軍のトップ、荒くれどもを束ねる軍団長。なんという懐の広さだろう。俺は今、この世界に来て初めて自分の行動を評価してもらえたのだ。
 こんな些細なことでジーンとする自分が悲しい。鬱だ。
 そんな俺を見下ろして、奴はさらに提案を持ちかけてくる。マントラ軍の配下となればもっと力を授けてくれるとか。

 確かに魅力的ではある。でも俺は、頭を左右に振って否定の意を示した。

 俺はちょっと前まで一介の高校生だったわけで、誰々に敵対するとか、トウキョウを支配するだとか、そういう物の見方は極端すぎてついていけない。
 イケブクロまでたどり着いたのも相当な行き当たりばったりだったのだ。ここから先、何があってもマントラに協力するなんて、口が裂けても言えるものか。
 ……居心地はいいんだけどな、お前の軍団って。

 すると俺の返答に、ゴズテンノウは突如笑い出した。
 フハハハハ!と神像の哄笑がこだまする。
 な、何だ。何かの琴線に触れたのか? ビクビクしてたら「底なしの欲望の持ち主め、このおちゃめさん」みたいな事を言われた。
 怒ってはいないらしい。というか勘違いされている。
 ……こいつと話してると、耳が痛いし、心臓に悪い。早いところ切り上げたい気持ちで一杯になる俺。

 しかしそんな願いむなしく、ゴズテンノウはニヒロに対する不満やら何やらの大演説を開始した。
 興に乗っている様なので、突っ込まないで放置しておく。本当にキレられたら怖いしな。
 じっと話を伺う振りしてぼーっと突っ立っている俺。聞けば聞くほど、ニヒロってのがよっぽど嫌われているのが分かる……そんな事を考えながら話半分にしていると、

「というわけで、ニヒロ機構に攻め入って奴らを滅ぼす。
 オマエもギンザに向かい、奴らを成敗してくるのだ!!」

 え? 俺、マントラ軍加入は断らなかったか? そんな事より勇や裕子先生の……

 と、逡巡している間に、ゴズテンノウの間から出て行かされた。あっという間。何故か知らないが、門も開かなくなっている。中の様子も伺えない。



 ……。



 結局、本来の用事を全く果たせないまま、閉め出された俺。
 鬱だ氏のう。俺の足は自然に物見台へと引き寄せられていた。


<プレイヤーのつぶやき>
 初めて目にしたゴズテンノウさん、すっげー格好よくてびっくりしました。いやー、部屋に入る前は戦う気まんまんだったんですけどね。しかも起こられると思ったら、人修羅を強化してくれましたよ!! 何ていいひとなんだ!! マントラに協力するか否は悩んだけど、戦って負けたわけでもないのに従うのは気に入らないので、お断りさせていただきました。そしたら、ますます懐の広さがわかりました。ゴズテンノウさま、プレイヤーは果てしなくマントラ派です。

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