第十五話 ミズチかわいいよミズチ


 上下反転の立体迷路もいよいよ佳境に入った。
 カブキチョウのボス・ミズチが陣取る、5階へと突入したのだ。
 勇やフトミミの救助を優先したいところではあったが、どうやらミズチを倒さなければ蜃気楼に囚われた者を解放できないらしいのだ。ならば手っ取り早くボスから片付けてしまおう。そう俺は腹積もりを決めたのだった。
 目指すミズチの居室前に到着すると、ずらりと左右に牢が並んでいた。
 例に漏れず中にはマネカタたちが囚われており、殆どが意識を失った状態で吊り下げられている。
 ──これは、マントラ軍の、暗部だ。
 安易にゴズテンノウの誘いに乗っていたら、きっと俺は後悔することになっていただろう。このマネカタどもを見て喜ぶような趣味は、持ち合わせていない。
 一応無事を確認するため一部屋ずつ覗きこんで行くと、俺を呼び止める声があった。かろうじて意識を繋いでいたマネカタだ。マネカタは奥の部屋に囚われたフトミミを救って欲しいと、鬼気迫る様子で訴えてきた。
 意思があるのだか無いのだかわからない。それが、今まで俺がマネカタに抱いていた印象だ。
 そんなマネカタにここまで強く求めさせる予言者とは、一体どんなヤツなんだろうか。
 どの道助けるつもりではいたが、俺の中でフトミミという人物への興味が大きくなるのを感じた。
 ……いいだろう。マネカタに頷いて見せ、俺は通路の奥にある大きな扉へと足を向ける。
 オルトロス、ディース、アラハバキの3人を召喚し、いざ内部へと……

ディース「……主よ」

 ディースの視線が俺を射抜く。
 えーと……何……?

ディース「何かお忘れでは御座いませんか?」

 ……分かったよ、畜生。マガタマ変えればいいんだろう!
 ペトラアイ発射前のディースの迫力に敗北した俺は、ガイアを吐き出してワダツミに付け替えた。
 ……ちびっこいミズチはブフ連発してきたから、これでいいよな。
 ディースの方に視線を向けると、彼女は満足げに頷いた。
 確かに俺は主人と呼ばれているが、これでは尻に敷かれる旦那みたいな気がする。鬱だ。



〜カブキチョウ捕囚所 5F ミズチの間〜

 見上げないと頭が視界に入らないくらい、でかい蛇がいた。
 さすがボス。ボスミズチと言っても差し支えのない貫禄だ。
 ボスミズチは俺と目が合うなり、その口蓋を大きく開いて威嚇のポーズをつくる。

ミズチ「オノレ チョコザイナ!
    貴様ガ コノ ミズチ様ニ カテル 道理ハ ナイワ!」

 ……貫録あるのは見た目だけのようだ。「チョコザイナ」の辺りにやられキャラの悲哀を感じる。

ミズチ「キサマハ ジキジキニ ゴウモンデ ヒキサイテ クレル!!」

 連中の拷問趣味はお前が原因か!
 そんなネチっこい連中にマントラ名乗られたら、ゴズテンノウも浮かばれないに違いない。
 かわいそうにゴズテンノウ。俺がマントラ軍に引導を渡してやるから成仏しろよ。
 さあ来い、ミズチ!!

ミズチ「ワハハハ ミズチハ ミズチ デモ ワシハ ヘビー級ダゾ!!」

 んなモン見れば分かる。……って、どうしたお前ら?

オルトロス「ワハハハハ ミズチ サイコウ! ナカナカ ヤルナ!」
アラハバキ「“蛇”と“ヘビー”を掛けた高度な笑いであるな。これは強敵であるぞ」
ディース「ほほほほ、笑わせないで下さいまし……って、ちょっと貴方達、主が飽きれた顔で見てましてよ。笑っている場合ではありませんわ。しゃんとしなさいな」

 ディースはバツが悪そうに頭を下げた。
 ……なるほど、今のはギャグだったのか。犯罪的だろ、このつまらなさは。
 とはいえ気づいたのが今更とバレるのもアレなので、黙って戦闘態勢を維持する事にする。今だけは自分の表情無さ加減に感謝することが出来た。
 仲魔たちが戦列を整えると、ミズチもお笑い空気を脱ぎ捨てて、殺気を噴出した。
 周囲に緊張感が満ち満ちる。まるで意識が霧に圧迫されるような……
 ──!! 気のせいじゃない!
 あたりに靄が立ち込めてきた。謎の装置から吹き出るものに酷似したソレは、あっという間に俺たちを包み込む。白く閉ざされた視界に、ミズチの哄笑が鳴り響いた。
 くそ、仲魔の気配が感じ取れない。はぐれたか!
 状況を把握した俺は急いで召喚の手順に入る。そして、完全に仲魔へ向けられた意識の狭間から、殺気が進入してきた。
 ──しまった──!!
 時すでに遅い。振り向いた無防備な姿勢のまま、俺は魔力の奔流の直撃を受けた。
 衝撃が肌を通り過ぎるのを感じ、固く目を閉じる。耐えられる、か──?
 ……まだ、意識が残っているのに気づき、ゆっくりと両目を開く。
 眼前には、慄然としたまま微動だにしないミズチの姿。
 何、だ……? 俺はすぐさま正気を呼び起こして、現状の理解に感覚を総動員する。
 知覚、聴覚、状態異常等、問題無し。身体の損傷の度合いは──まったくの無傷!
 なるほど、ディースに感謝しなければ。どうやら読みどおり、ミズチは氷結系の攻撃手段しか持っていないようだ。それならば、はぐれた仲魔を呼び戻すまでも無い。
 ──このまま決着をつけてやる!
 俺は裂帛の気合いと共に、伝家の宝刀・突撃を見舞いする。
 ミズチも負けてはいない。利きの悪い氷結系の他に、巨体を活かした物理攻撃で攻めてくる。
 普段はガイアの魔力に守られている俺の身体だが、元から頑丈に出来てるわけじゃない。ワダツミで氷結を防護できる代わりに、確実に耐久力は落ちている。溜め込んでいた宝玉をガリガリ消費しながら、物理攻撃の応酬についていくのがやっとだ。

ミズチ「……ン? ナンダカオマエ デカクナッテナイカ?」

 何言ってるんだ、この必死さ加減が分からないのか?
 気合い・突撃・宝玉を繰り返す俺の精神はそろそろ限界に近い。
 ぶっちゃけ、自分でも馬鹿の一つ覚えだと感じつつある。新しく引き出せるマガタマのスキルを片っ端から切り捨て、突撃に賭けた青春。虚しすぎる。鬱になってきた。目の前の敵を完璧に打ち砕くのだけが、俺の矜持となりつつある。だからとっとと倒れやがれ。

ミズチ「ヤッパリ オマエ デカクナッテナイ?」

 無駄口利いてるんじゃないぞ──って、何だ? 
 しばらく見ない間にずいぶん可愛いナリになったな、お前……

ミズチ「ヌヌ────!? ワシガ シボンデルノ!?」

 うん……そうみたいだな……
 ミニマム化したミズチを前に、俺のイライラは雲散霧消した。ミズチかわいいよミズチ。
 でも悪い。勇にフトミミにマネカタどもが待ってるんだよ。
 哀れだが、手加減するのはもっとアレだろう。よし、そこに直れ。突撃一発で昇天させてやるからな。



<プレイヤーのつぶやき>
ミズチ戦です。ミズチ初手の蜃気楼により仲魔が全員PANIC→ストック帰還(゚∀。)アレ? あまりのショックに自暴自棄になったので、主人公単独のままミズチ戦を続行しました。ワダツミ様は霊験あらたかです。属性を無効化できるとこんなに戦闘が楽だなんて知りませんでした。例によって気合い→突撃、時々宝玉での勝利です。最初はラクンダかけたんですけど、デクンダされちゃうしうちの主人公は致命的にMP足りないので、結局素突撃での勝利ですね。
……そしてよく考えたら、このゲーム一人で勝っても何にもメリットありませんね。ちゃんとやればよかったorz

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