第十四話 拷問中のところ失礼します


 ガラクタ集めのマネカタを捜して1Fを闊歩する。
 ふと天井を見上げると、点々と赤黒いものが染み付いている。きっと血の跡だろう。
 カブキチョウ捕囚所は、歩いているだけで気の滅入る場所だ。
 剣呑な痕跡を見つけるたびに、手遅れになっていないかと不安がこみ上げた。ゾウシガヤで見た泥の積み上げられた光景が、脳裏を掠める。俺は首を左右に振って、妄想をかき消した。
 ギンザで余計な時間を食ったのは悔やまれるが、だからと言ってぼやぼやしている理由にはならない。
 改めて捕囚マネカタへの聞き込みを再開することにする。手近な牢屋に近づいて、ガラクタ集めの行方を尋ねてみた。

「……ほっといてくれ」

 正直スマンかった。「拷問中お邪魔します」が二周目に入れば、そりゃ良い顔されるわけが無い。
 しかし問題のガラクタ集めも似たような目に遭っていることは想像に難くないわけで、やはりここは手段を選んではいられない。
 憂鬱な気持ちになりながらも、次々牢屋を渡り歩く。

「ガラクタ集めのマネカタなー。この前捕まってなー」

 一人のマネカタが、思わせぶりな反応を見せた。あいつの所在を知っているのか?

「──びんぼーで思い出せないなー」

 貧乏は関係ない……よな。これはマッカを要求しているのだろうか。磔の分際で随分余裕だな、おい。
 身動き取れない虜囚が金をどうするつもりなのか、小一時間問い詰めたい所だ。
 しかし俺にも仏心はある。獄中の慰みくらいにはなるかもしれないので、僅かばかり恵んでやることにした。

「もう100マッカあれば思い出せそうかなー」

 ……良い根性してるな、お前。本当にガラクタ集めの情報を持っているのか、疑わしくなってきたぞ。

「ケチはいやなー」

 ケチ! ケチだと!?
 この俺がいままで、どれだけ悪魔に貢いできたと思っているんだ。俺はプライドが傷つけられるのを感じた。鬱だ。

……これをプライドと言えるのかは疑問だが。
 とりあえずケチ呼ばわりは心外なので、言われるままに100マッカを投げつけてやる。

「2Fかなー」

 信用するからな。
 もし間違ってたらマッカを回収してやると胸に誓いつつ、ハシゴを降りて2Fに向かう。
 道中は、ここを根城にしているマントラ残党が襲ってくるのでなかなかに険しい。強力な槍の一撃を放つナーガ、身体の前面がぱっくり割れたピシャーチャ、イカヅチをまとったライジュウなどを、力任せに退けながら先を急ぐ。
 ……ときどき小さな蛇みたいなのも混ざってるんだが、あれはマネカタの言う「ミズチ」って奴じゃないのか? 片っ端からオルトロスのファイアブレスで薙ぎ払っているので、この捕囚所の元締めって感じには見えないんだけどな……
 しかし手ごたえの有る連中だ。油断すると三途の川が見える。
 俺は仲魔たちに気を引き締めるよう言いつけた。

キクリヒメ「危機的状況なのは、主がパーティーに回復役を入れないせいだと思いますけど?」
ディース「その上、HPスキル連発ですものね……治療する待機メンバーの身になって貰いたいですわ」

 新顔のライジュウやオルトロスを鍛えるのに忙しいんだ。スパルタ教育って奴だな。

オルトロス「デモ シニカケルノ イツモオマエダケ。 ダイジョウブカ?」

 ……突っ込まないでくれ。



〜カブキチョウ捕囚所 2F〜

 ひっくり返る天地に悪戦苦闘しながらも、なんとかガラクタ集めを発見する事が出来た。
 落とし穴や荷物の山に塞がれた道の先、奥まった箇所に、設えられた牢。
 そこに繋がれたガラクタ集めは、苦しそうに咳き込んでいる。……血を吐くような音だ。
 俺が格子へ近づいて行くと、はっとした様子で彼は顔を上げた。

「……キミは? あ……大地下道の……」

 覚えていてくれたのか。俺は何だか、胸の奥からこみ上げるものを感じた。
 知人を訪ねるという行為が、このボルテクスではやたら奇異なものに思えるのが不思議だ。
 再会を喜びあう俺たち。もっとも、俺がギンザなんかで時間を潰してしまった事を考えると、いささか罪悪感が湧いたりもするのだが……本人のためにもこれは黙っておく事にしよう。
 俺は友人を捜している事やこれまでの経緯を、かいつまんで説明することにした。
 ガラクタ集めは静かに相槌を打っていたが、俺がスプーンの件を持ち出すと、迷ったように押し黙った。
 きっと、ガラクタ集めはスプーンを持っており、大事にしているものであるに違いない。
 俺は、ガラクタ集めの返事を待ちながら、頭の中で次の方策へと思考をめぐらせていた。

「……そう。……ヨシ、わかったよ」

 ガラクタ集めの言葉が、俺の思考を断ち切る。
 マネカタ特有の緊張感の無い表情だが、確かな決心の篭った声音だった。

「千円札探しでは……お世話になったからね……
 ……ボクの持ってるスプーンをあげるよ……」

 咳き上げながら必死で言葉をつむぎ、何かを握り締めた手を差し出した。
 手を広げてみると一本のスプーンが、刃物のように冴えた光を放っている。
 スプーンの鑑定家ではないので良し悪しは分からないが、これなら穴掘りマネカタも気に入ってくれるように思えた。
 ガラクタ集めは誇らしげに「首かりスプーンって言うんだ」と語る。……首かり……?
 いろいろと曰く有る品らしいが、先を急ぐので話は今度にしてもらおう。
 礼を言ってその場を立ち去ろうとすると、弱弱しい声が投げかけられた。

「……ついでに、助けてくれるとうれしいな……」

 ──もう少し待っていろ。フトミミとかいうのと一緒に、助けてやるからな。
 今は、上のフロアを目指さなければ。俺はガラクタ集めに背を向けて、走り出した。



 首かりスプーンを渡すと、穴掘りマネカタは大喜びで床を掘り始めた。
 するとどうだろう。あっという間に大穴が姿を現した。比喩でなく、本当にあっという間である。瞬き一回分くらいか? 何と言う性能だろう、ガラクタ集めが惜しんだだけの事はあるな……
 そんな事を考えている内に、穴掘りマネカタは大喜びで穴に飛び込んでしまった。
 ……一体何処に通じているんだろう。穴の向こうの様子は伺えない。あいつと俺とでは天地が逆転しているので、追いかけることもできそうにない。
 俺は近場に有る謎の装置へ赴き、蜃気楼の世界から抜け出した。
 現実世界の通路を通ってくると、予想通り部屋の一つに大穴が空いている。
 もと来た道に戻れるか不安だが、ここから先に行けば崩落で進めなかった通路の先にも出れるはずだ。
 俺は意を決して、大口を開く闇の中へと、身を躍らせた。


<プレイヤーのつぶやき>
カブキチョウ攻略パーティーは、アラハバキ、オルトロス、ライジュウ。オルちゃんはたまたま作ったのですけど、ここではファイアブレスがめちゃくちゃ使えます。あとはライジュウの放電等、範囲攻撃でごり押し。主人公にきちんとファイアブレス覚えさせているヒトは楽勝なんじゃないでしょうか(笑

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