第三話 赤くて三倍速いヤツ、襲来


 決闘裁判から生還してしばらく、俺は回復の泉で仲魔とたむろしていた。
 マガタマがいくつかスキルを吐き出し、仲魔も増えて、戦力が充実していくのを実感する。新たな仲魔やスキルが増えるたびに、どれを戦術の中心に据えるか迷ってしまうのが悩みの種だ。
 現在は物理攻撃が主体で、PTの魔法も回復とンダ・カジャ系に片寄っている。トールやマタドールのような大物相手には困らないが、かえって数で押して来る雑魚敵には手間取ってしまうのだ。 一人は攻撃魔法の使い手が居た方が良いと思い、ジオンガを覚えていたタケミナカタを材料に、魔力の高いキクリヒメを召喚した。キクリヒメとアメノウズメは並べてみると良く似ている。舞姫が二人になり、パーティーが大変華やかになった。
 ただ、俺はタケミナカタ&モムノフのイカツサに慣れていたわけで、どうも女型悪魔が多いと頼りなく感じてしまう……実際はそんな事ないんだけどな。今回のキクリヒメは傑作と言ってもいいくらいなのだ。

 レベルが25を越えた辺りで、マントラ軍本営に向かう。トールのはからいで自由に出入りしていいことになってはいたのだが、ついついイケブクロで遊ぶのに夢中になっていた……用件を忘れて戦いに没頭するのは悪い癖だ。
 勇に千晶に祐子先生の安全を確認しなくてはならないのに、俺は意外と人情が薄いのだろうか。この人修羅の姿もあんまり違和感なくなってきたぞ。
 仲魔が俺を見てニヨニヨしている。文字通り仲魔となる日も遠くないかもしれない。

 ……そんな事を考えながら、本営の扉を押し開けようとした、その時。

 物凄く嫌な感覚が全身を襲う。
 肌があわ立つのを感じ、わけもわからず俺はその場を飛びのいていた。
 直後に、衝撃。
 一瞬前まで俺のいたところに、質量を持った何かが激突したのだ。

 それは、人の姿をしていた。
 最初に目に飛び込んできたのは、赤。
 真っ赤なロングコートを着込んだ、人間の男だった。



 俺はしばし動転していた。
 確かに今、何かが落下してきて、それは人間の姿をしていて──
 何処からと見上げれば、60階建てのマントラビルがそびえ立っている。
 
 そして目の前には拳銃と大剣を携えた赤コートの男だ。

 赤い。なんつーか赤い。目も当てられないくらい赤い。何ていう格好だろう。恥ずかしくないのか。全身タトゥーの俺ですらも突っ込みたくなる。悪魔ならともかく、人間だもんな。まともな悪魔と変態な人間、付き合うならどちらかと言われたら俺は迷わず後者を選ぶ。
 係わり合いになるのはよそう。「誰だ」なんて聞いたら泥沼に違いない、トラフーリでも使って逃げ──

「会えて嬉しいぜ、少年」

 参った、声をかけられてしまった。人違いかと周囲を見回すが、マネカタが遠巻きに見守っているだけだ。変態の目的は俺らしい。どうしよう。というかマネカタどもは高みの見物を決め込んでいる。「悪魔の方もスタイリッシュだね」とか小声で言っているのが聞こえた。さっそく同類扱い。鬱だ、後で殺そう。よくわからないがマネカタをしぼるとマガツヒが手に入ると言うし。

 ──とか現実逃避をしていて、事態が好転するわけもなかった。気がつくと「赤いの」の銃口はしっかりと俺の方を向いているし、もうこれは知らぬ存ぜぬで通りそうにない。仕方ないので腹を決めて思い切り睨み返してやる。

「お前もそう思うだろ?」

 え、何が? 前後の文脈が良く分からない。俺が逡巡していると仲魔がひそひそ耳打ちしてきた。

キクリヒメ「主よ、彼は会えて嬉しいと仰ったのですわ。それに同意を求めておいでなのです」

モムノフ「なんだ、知り合いかよ? ぶッ刺さなくていいのか?」

 とりあえず知り合いではない。首を左右に振る。

アメノウズメ「えー、マジで? じゃあこれってナンパじゃん!? マスター、やっるぅ!!」


 ……なんだと?

 俺は恐る恐る「赤いの」の表情を確かめた。今にも舌なめずりしそうな笑み、こちらを捕らえて離さない、燃えるような双眸。

 マジだ!! あの眼はマジだ!!! 殺らなければ殺られる!!!

 俺はトール戦でも感じなかった危機感に駆られ、速攻でラクンダを二発叩き込んだ! なにやら相手が「10分だ」とか言っていたのが耳に入ったが、それどころじゃない。というか何が10分なのか考えたくもない。むしろ二秒でとどめをさしてやりたい。

 仲魔は俺のかってない殺る気を感じ取り、慌てて本気支援を開始した。タルカジャが掛り、気合いも入り、さあ必殺の一撃を叩き込んでくれる……と突撃の構えを取ると、その様子の何が可笑しいのか、「赤いの」が不適に笑う。
 次の瞬間、「赤いの」は白光を放ち、ラクンダの呪縛を瞬時に打ち消してみせた。
 ……くっ、一筋縄では行かない? こいつ、ただの変態じゃないというのか?
 このまま突っ込むのはヤバい。こちらが足を止めて構え直そうとすると、奴は眼にも留まらぬ所作で二丁拳銃を取り出し、弾丸をばら撒いた。仲魔もろとも弾の雨を食らわされる。マガタマに強化された皮膚が多少の衝撃に傷つけられる事はないが、俺と違って物理的な攻撃に抵抗手段を持たないアメノウズメとキクリヒメが深刻なダメージを負った。
 糞ッ、解呪の直後にこの手数かよ……何て反応速度だ、人間のソレじゃない。あの「赤いの」は通常の三倍なんてモンじゃないぞ。ってかそもそも地上60Fから飛び降りて無事でいられるのが人間のワケ無い。……この、魔人め!!

 負傷の手当ては女神二人にまかせ、俺はモムノフとタイミングを合わせ、手当たり次第に打撃を叩き込んだ。躊躇を振り払った連撃を一身に受けては、さしもの魔人も余裕の姿勢を保てまい。奴の膝をぐらつくのを、俺は見逃さなかった。地上60Fからダイブを決める無茶な男でも、ダメージは確実に蓄積している。その事実に、俺の心は平静を取り戻しつつあった……クールだ、クールに行こうぜ俺。
 だが、そんな思惑を見透かすように「赤いの」はニヤリと笑うと、颯爽と体勢を立て直して器用な動きで二丁拳銃の照準を合わせた。

「結構ギラギラしてきたな! 分かるぜ、楽しいんだろ!? 俺もそうだからな!」 

 挑発を交えながら混乱効果のある銃撃(トゥーサムタイム)を全体に撃ち込んで来る。マズイ、今のマガタマは異常にかかりやすいんだ。どうにか精神を集中して、体内のカムドが暴走するのを抑える。──仲魔の方は大丈夫か? 銃弾を両腕で受けながら彼らを見やる。

キクリヒメ「……そんな……は、はしたないですわご主人様……!!」

 キクリヒメは鼻血を垂れ流している。どう見ても今の銃撃によるダメージじゃないが。

アメノウズメ「ギラギラですって! キャ〜っ、いや〜ん☆ マスターやる〜ぅ☆」

 アメノウズメはPANIC状態。鬱だ。死んでほしい。バカアマ共は後でブロブと合体させてやろうと決意。一方モムノフは「げははは」と笑いながらマッカをばら撒いている。お前は生贄な。

 ……だめだこいつら。
 俺はもう、なにもかもどうでもよくなって、回復も補助魔法も一切無視して目の前の「赤いの」を殴り続けた。相手が一発ぶっ放すたびに一撃。至近距離から撃たれようが一撃。背中の剣で斬り付けられても反撃。猿の様に同じ動作を繰り返す俺、多分無表情。
 対する魔人の面は少しずつ強張っていく。「オイオイ、何だよ」と言いたげに大剣をぶんまわしてくるが、マジにさせたのはお前(と仲魔ども)だ。俺のキレっぷりに、「赤いの」は呆れ顔で再び全体攻撃を放つ。背後から悲鳴。古事記ダンサーズが巻き込まれて昇天したようだ。
 「赤いの」はどうだ、少しは退いてみろってな顔。知るか、回復はアイテムで補う。魔石をガリガリ噛み砕きながら拳を振り上げる。

赤いの「オイ……」

 気合い入れて、突撃して、魔石食って、気合い入れて……

赤いの「わ、悪くない、気に入ったぜ……グフッ」

 まだ言うかこいつは!!!!! 自分の内で最後の何かがプツンと切れた。

 ──ここで俺の意識は途切れる。



 次に正気を取り戻したときには、赤服変態(ダンテと名乗った)は妙に紳士的になっており、何故俺を狙ったのか教えてくれた。
 ダンテはデビルハンターなるものを生業にしており、とある老紳士の依頼で俺のような悪魔を狩りに来たのだとか。何だ、俺はてっきり……いや、考えないようにしよう。古事記ダンサーズの勘違いだったんだ。うん。

 結局ダンテは今すぐ俺を狙うつもりは無くしたらしい。理由はよくわからない。俺と戦って思いなおす事でもあったのだろうか。唯一生き残ってたモムノフに意識を失っていた間のことを聞いてみるが、「KOOLモード……」とかおびえ切った様子で呟くばかりだ。何やらさっぱりである。

 デビルハンターは雇い主の意向を調べると言い残して去っていった。
 「オマエを殺すのは俺だ」なんて物騒な捨て台詞もおまけにつけて。
 参ったな。チンピラまがいの悪魔に狙われるのは良くあることだったし、この世界ではこっちが闖入者なわけだから、それは受け入れているが……積極的に命を狙われるという事態になるとは思わなかった。これからどうなることやら。

 とりあえず、アメノウズメとキクリヒメを叩き起こしてくるか。


<プレイヤーのつぶやき>
 ダンテさんは強くてびっくりでした。何にも準備してなかったってのもあるんですけど、ンダ・カジャメインのMYパーティーにホーリースターはきつい(ノД`) 状態異常攻撃も痛くて痛くて。後半は本当に古事記ダンサーズが死んでしまったので、モムノフに「次に回す」を連打させて、ひたすら殴って勝ちました。最後はHP2桁でしたよ(笑

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