第八話 だって氷川は総司令


 4つ目のキーラをを入手した俺たちは、ターミナル前の台座の間まで戻ってきた。キーラを納めるくぼみに、今しがた手に入れたばかりの最後の一本をセットする。すると、室内が、いや、建物全体が鳴動を始めた。
 足元から強烈な機械音が響き、見ると、床に渦巻状の切れ込みが入って、中心から窪んでいくところだった。窪みはどんどん深くなり、床屋の看板の様な螺旋を描いて、地下の空洞へと落ち込んでいく。

 数十秒してすっかり振動が収まった頃には、地下数十メートルにまで届く巨大な螺旋階段がそこにあった。

 ……なんていう大掛かりな仕掛けだろう。ニヒロの連中は出入りする度にいちいちこれを繰り返してるんだろうか。その姿を想像するとちょっと笑える。というか、鍵になるキーラをあんな迷宮の奥に置きっぱなしと言うのは色々間違っている気がする。利便性というものをとことん無視したセキュリティだ。

 さて、聖の話を信じるならば、この下がホンモノの中枢部になる。氷川や祐子先生が何を企んでいるのか知らないが、先へ進めば二人に会えるはずだ。
 アラハバキ、キクリヒメ、ディースの三体を引き連れ、俺は螺旋階段を駆け下りていった。



〜ニヒロ機構 B15F〜

 ……一体どうなってるんだ、ニヒロ機構の設計は。
 あんな苦労しなければ進めない構造にしておいて、さらにその先に迷路が待ち構えてるっていうのはどういう事なのか。問いたい。問い詰めたい。子一時間問い詰めたい。とりあえず、建築責任者であろう氷川の正気を疑わせて貰う。

 トウキョウに来る前にちらっと会った印象では、「無駄を嫌う男」──それが俺の氷川のイメージだった。
 でもこのニヒロ機構はどうだろう。行き止まり連発の通路。スイッチ操作で道を繋がなければ先に進めない貯蔵庫。そんな奥にしまわれた中枢部の鍵(しかも4つ)。
 ……無駄ばっかりだ。無駄の坩堝。無駄の目白押し。まだマントラビルの方が幾らも洗練されてるぞ。あそこは最上階直通のエレベーターだって用意されてるんだ。一分弱かけてごりごり変形する螺旋階段なんて使ってない。

 あちこちで枝分かれし曲がりくねった通路を抜けて、ようやく俺たちは中枢部のドア前に辿り着いた。本当の本当にこれで終わりだよな? すっかり疑心暗鬼に陥ってる俺。鬱だ。
 でも此処で帰ったら勇にどやされそうなので、鬱を振り払って扉を開け放つ。


 ドンピシャリ。上の階で見たニセ中枢に良く似た、それでいてもっと禍々しい部屋に出た。
 俺たちの気配に気づいて、中にいた男が振り向く。あのMハゲ、間違いない。氷川だ。


氷川「マントラもただ愚直なばかりではないということか……」


 氷川は少し驚いた様子を見せた。俺たちがここまで辿り着くとは思っていなかったらしい。俺もマントラのバカボンどもでは太刀打ちできなかったと思う。というか、ここまで訪ねてきた俺の善意に感謝して欲しい処だ。


氷川「何故ここを訪れた? 私に会うためかね?」


 前言撤回。勘違いされては困る。会いに来たのは祐子先生の方だ。
 大体アンタには初対面早々にヌッコロされかけた記憶しか無いんだが……自分のしでかした事も覚えていないのか。
 それにしたって、自意識過剰にも程があるけどな。
 ダンテと言い、ゴズテンノウと言い、無条件で相手が好意を持ってくれると思い込んでいる奴が多すぎるぞ。俺がこっちに来てどれほど努力して仲魔を作っているか分かってて言ってるのか。何だか泣きたくなってきた。さらに鬱になる俺。

 とりあえず氷川は無視して、先生の姿を探す。しかし見える範囲では氷川一人の姿しか見当たらない。二人は一緒にいるんじゃなかったのか? 氷川の事はどうでもいいので先生の居場所でも教えて欲しい。あの先生、俺に「生き残ったら会いに来い、全部の謎に答えてあげる」とか言っていたんだが、この期に及んで雲隠れか。

 俺の不満げな様子を察したのか、氷川は「……まあいい。折角一人で此処まで来たんだから、話くらい聞いていけ(意訳」と振ってきた。どうやら祐子先生に代わって、モロモロの疑問に答えてくれるらしい。
 俺は人の好意を無駄にはしない主義なんだ。大人しく耳を傾ける事にする。


 ──分かった事は、つまりこうだった。

 ボルテクス界のあちこちで「マガツヒマガツヒ」と騒がれていたのは、このマガツヒと言うのが創世の材料になるからなのだ。マガツヒを沢山集めると神を呼ぶ事が出来て、その神様が新しい世界を作ってくれる、と。

 随分と大きな話で、正直驚いた。俺にとって東京受胎は降って湧いた天災みたいなもので、祐子先生が言っていた創世云々と言うのはすっかり頭から抜け落ちていたのだ。
 マントラのゴズテンノウだって考えていたのはボルテクス界の支配だったし、まさか本気で創世なんて大それた事考える奴がいるなんて、思ってなかった。

 目の前の氷川って言うのは、どうやらその大物らしいが。

 何でも、個の利益や感情に左右される事の無い、究極の平等社会=シジマを作るんだそうだ。良く分からないが、ゴズテンノウが聞いたら怒り狂いそうだな。いや、実際怒っていた気がする。話半分だったから内容は覚えていないが。
 しかしこいつも例に漏れず、自分に酔いまくりで演説を垂れ流す。どうも俺はこの手の状況に陥ると、意識がシャットアウトを図ってしまうらしい。ぼんやりと一段落するのを待っていると……


 なんか、目の前のターミナルタワーが物凄い勢いでウォンウォン言ってる。表面のマガツヒの動きも速くなっているような……?
 何々、この装置があるとマガツヒの流れを操る事が出来て、放っておいても創世に必要なマガツヒが貯まっていくと。なるほど、マネカタを拷問して絞っているマントラ軍よりはるかに効率が良さそうだな。マントラ劣勢か?

 で、この装置。名前をナイトメア・システムと言い、いまからこれでマントラに攻撃を仕掛けるのだそうだ。


 ナイトメア・システム


 ナ イ ト メ ア ・ シ ス テ ム


 その瞬間、俺の脳裏に電撃がよぎった。
 このどうしようもないネーミングセンス。
 宇宙船の様な外観・内装の基地。
 必然性の欠片も無い仕掛けに守られた司令室。
 世界を正す!との大演説っぷり。
 椅子に座って初登場。
 可哀想だが死んでもらう発言。
 そして、何故か二つ名が総司令


 間違いない、こいつ特撮オタだ!
 それも、悪の大首領にリスペクトされたコアなファンだ!!

 囚われのヒロインと言うには、先生の年齢はアレだと思っていた。
 しかしそれは大きな誤解だったのだ。
 先生の立ち位置は悪の女幹部、これなら全て納得が行く。
 ナイトメア・システムは祐子先生を媒体にしているという話だし。


 何てこった、謎が全て解けてしまった……

 呆然と立ち尽くす俺を前に、氷川はマントラ本営への攻撃を開始する。その姿は余りにも堂に入りすぎていて、ますます俺の確信を強まらせた。
 祐子先生、男の趣味を少し考えないと、勇が泣くぞ……


氷川「祐子先生が心配かね?」


 色んな意味で心配になっている処だ。


氷川「残念だが彼女は此処にはいない。もう君に会う事も無いだろう。今の彼女は、創世の巫女以外の何者でもないのだからな……」


 どうもその「創世の巫女」と言うのは似合わないと思う。ここはやはり「創世の魔女」とか「創世の女王」とか、女幹部分を高めてはどうだろうか。


氷川「……やはり君は受胎を生き残るべきでは無かったようだ」


 俺の妄想が見抜かれている!!!!???
 というかそれで生きてちゃいけないって判定されるのか、俺?
 よっぽど嫌われているようだ。鬱だ。氏にたい。

 氷川は、悪魔を一体召喚すると出口に向かって歩き出した。
 ……逃げるつもりか? しまった、祐子先生の行方を失うわけにはいかない。急いで後を追おうとするが、呼び出された悪魔が俺たちの前に立ちふさがった。

 半豹半人の剣士、堕天使オセだ。
 中々の手練れの様だが、俺はいい加減急いでいた。
 一切の無駄なくンダ・カジャ魔法を駆使、気合い+突撃のいつもの戦術で豹男を攻める。。
 テトラカーンに解呪系は鬱陶しかったが、奴がそれを使い出した頃にはもう手遅れだった。フルブースト状態の俺の攻撃を一回でも許した時点で、勝負は8割方決したも同然なのだから。

 トールに膝を突かせた突撃を食らい、オセはあっけなく地に臥す。
 しかし奴は氷川の去った方を見やると、満足げに笑って絶命した。豹男の肉体が霧の様に掻き消え、カツンと音を立てて、マガタマが落下する。


 ……氷川を取り逃がしてしまった。これで祐子先生探しは振り出しである。
 戦利品はマガタマひとつ。


 今後のことを考えると気が重くなった。

<プレイヤーのつぶやき>
東京受胎から随分ままーりした展開だなーと思っていましたが、此処に来て氷川さんの登場です。今まで出会ってきた悪魔達がテケトー人種だらけだったので、氷川さんのテンションは新鮮でした(笑) マジメに創世やれそうなの貴方だけだよ!! ボス戦のオセの方は、ガイア装備で気合い+突撃4ターン撃破です。近くで見物している家族から「お前のボス戦はいつも同じ倒し方でつまらない」とか言われてショボーン(´・ω・`) やってる方は結構スリルあるんですけどねえ。

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