第十一話 スピードのむこう側

 結局カブキチョウ捕囚所へ向かう事にした。千晶と違って行き先も分かっているのに、勇を放って置くわけにはいかない。正直あいつらの自己完結っぷりにはうんざりだが、見放す前に説教の一つでもくれてやろうと思う。

 捕囚所へ向かうにはイケブクロ東の高速道路を通らなければならない。マントラ崩壊の騒動ですっかり警備がザルになった東門を抜けて、表へ出る。
 久々にトウキョウの荒野に立った気がした。移動に殆どターミナルを利用していたのもあるが、ひとところに留まりすぎたのだと思う。もともとここは俺の住む世界じゃなかったのに、おかしな話だな。

「ちょっと、ちょっと!!」

 と、ストック状態だったハイピクシーの声が俺の頭の中に響く。

「待機中だからって荷物番に使うのやめてよね? 熱ッ、もう、これ本当に邪魔臭いなぁ〜っ。自分で持ち歩いてよっ」

 ハイピクシーのわめき声で聴覚が一杯になると、俺の目の前にぼとっとそれが落下してきた。七又の枝を持つ燭台、メノラー。その先端に灯る炎が、不自然に揺らめいている。
 メノラーはアマラ深界で喪服の女から押し付けられた謎の道具だ。俺が自分の力に迷ったときに導いてくれるとか言っていたが、正直いままで何の役にも立ったことがない。むしろ謎の骨悪魔が二人ほどこれを狙って襲い掛かってきたり、倒したらそいつらのメノラーを押し付けられて所持数3本を数えたりと、お荷物と言った方が正しく思える。
 いま目にしている様にメノラーの炎が揺らぐときは、同じメノラーを持つ魔人が近くにいることを示しているのだ。ああもう、これで一本増えたらまたピクシーにどやされる。出来ることならお近づきになりたくないなと思いながら、俺は高速道路の入り口に向けて歩き出した。



〜高速道路〜

 嫌な予感は的中するもので。 
 料金所に漂ってた思念体がガクブルしながら言っていた「高速に現れる亡霊」──やはりこれが魔人だったらしい。
 すでにカブキチョウへの道程の半分を過ぎた辺りで、とてつもなく恐ろしい悪魔の気配が俺の足を止めた。方向は背後から。それもすさまじい速度で近寄ってくる。

──感じる、感じるぜ。俺が求める力を……

 既にあたりは妖気によって異界と化し、メノラーを求める魔人の声が響く。次いで、爆音。音と気配の方向へ振り向くと、遥か地平線の彼方から砂煙を立てて……何だあれは……大型バイク!!??
 俺めがけて一直線に突っ込んでくるソレは、黒ヘルメットに赤いマフラーをたなびかせ、クラシックな大型バイクに跨ったドクロのライダーだった。おいおいおい、何処の納涼怪奇特集さまだ。

「メノラーを持つヤツが近くにいる! ……オマエか!? オマエが持ってるんだなっ!」

 向こうも俺を視認したらしく、スピードを落とすどころか一層排気音を強めて接近してくる。この速度では逃げても背中から轢かれそうなので、身体ごと向き直って臨戦態勢を整える俺。何だこの絵。接触するまであと2秒。

「メノラーをよこしな! そうすりゃ連れてってやるぜ……スピードの向こう側へ!!」
 
 どこに連れて行かれるんだ俺!!
 ただちにアメノウズメ、ディース、キクリヒメを召喚して補助魔法の展開を命じる。タルカジャを全開威力に引き上げて、俺はドクロライダーとの衝突に備えた。

「さあ、行くぜ! 俺とコイツの怒りを止められるかな!!」

 ドクロライダー(後で分かった事だが、ヘルズエンジェルってのが名前らしい)が駆るバイクの前輪が唸りを上げて俺に襲い掛かる。巨体の重量が載った一撃をモロに食らうが、タイヤの高速回転に削られる事無く俺の身体は持ちこたえていた。伊達にガイアを手に入れたわけじゃない、物理攻撃は望むところだ。こちらの間合いに入り込んだヘルズエンジェルを、強化魔法の載った拳で横合いから殴りつける。側部からの衝撃に倒れかける黒い車体。しかし、ヘルズエンジェルはうまく軸を慣らして、元の体勢に立て直して見せた。なるほど、流石に2、3発殴ったくらいでやられてはくれそうにないか……俺は気合いを入れて、必殺の突撃の構えを取る。
 ヘルズエンジェルは巨体を生かした全体攻撃を仕掛けてくるが、対応はアメノウズメのメディアに任せ、残りの面子は俺のサポートに回した。スク・タルカジャの魔力をみなぎらせ、俺はヘルズエンジェルと体当たりでぶつかり合う。何度か交差を続けたところで、ヘルズエンジェルの気配が変わる。真向勝負は分が悪いと判断したのか、エンジンをふかして距離を外し、バイクの高速回転でつむじ風を巻き起こす。風刃と砂礫が俺たちを襲った。強化の魔力が吹き飛ばされ、衝撃に弱いガイアを装着していた俺は深手を負う。かろうじて風を受け流せるアメノウズメが、メディアで俺たちを持ちこたえさせてくれたが、それはかえってヘルズエンジェルのプライドを刺激した様だった。
 
「……俺の走りにここまで付いてきたのはオマエが初めてだ。だが、コレならもう来れまい!! 」

 スロットルを全開にした爆音が轟く。そして二輪の駆動は目で追えないものへと変化した。──まだ早くなれるってのか!! 速度を数段増したヘルズエンジェルは、火炎・衝撃系の全体攻撃を遠慮なしに叩き込んでくる。火炎はディースが吸収してくれるから問題ないが、カジャを打ち消す衝撃が厄介だ。ただでさえ強化魔法は魔力を食う。のろのろ戦列を整えてたんじゃ、ジリ貧になりかねない。サポートに徹するようにとの仲魔への指示を取り消し、二段階強化を保ちながらそれぞれ攻撃へ転じるよう命じる。
 戦法を変えた俺たちとヘルズエンジェルの間に、打撃、衝撃、爆撃が乱れ飛んだ。アメノウズメが必死にメディアで戦列を支えたが、一人だけ錬度の低かった彼女はとうとう猛攻に耐え切れず、ヘルズエンジェルの前輪に引き裂かれて倒れ伏す。が、同時に俺の渾身の当身が奴を捉えていた。突き出した腕に、ジャストミートした反動が伝わる。バイクの巨体が一瞬宙に浮き、数m地面を引き摺った後、その駆動を完全に止めた。
 動かなくなった二輪車は、搭乗者を伴って、空間から掻き消える。
 ……勝利、だ。俺は予期せぬ苦戦に、腰を下ろして大きく息をついた。
 アメノウズメを犠牲にしてしまった事に自分の力不足を痛感しながら、キクリヒメに蘇生を命じる。予想通りというかなんというか、起き上がったアメノウズメは俺が弱点の多いガイア装備であることを責めまくるのだった。鬱だ。

「休息中のところ悪いんだけど」

 よく通った声が響き、ストックから抜け出したハイピクシーが俺たちの前に現出した。

「あれ、拾うんでしょ?」

 彼女が指差した先を見ると、高速道路の真ん中にぽつんと屹立した七又の燭台。
 そしてハイピクシーはガラガラと残りのメノラーを地面に落とした。

「今度からはちゃんと自分で持つようにしてね」

 ストックに戻るハイピクシー。



 俺は威厳のメノラーを手に入れた。
 ……ちっとも嬉しくない。



<プレイヤーのつぶやき>
何だか無駄に文量が多くなってしまったヘルズエンジェル戦(汗 ダンテの時もそうでしたが、うちパーティー構成だとデカジャ使いは強敵ですねー。仲魔が次々と攻撃魔法をダメスキルに変えてくれたおかげで、どうしても通常攻撃に頼りがちな現状。物理無効の敵とか出たらどうするんだろうとヒヤヒヤです。ヘルズエンジェル戦は全体攻撃でクリティカル出されると非常に鬱陶しいので、衝撃・火炎吸収系の仲魔がいると便利だなぁと思いました。いいかげんガイアやめましょうという突っ込みだけはご勘弁をw
あと、ハイピクシーの口調がピクシーのまんまなのもスルーでお願いしますm( )m

←BACK   NEXT→

■真女神転生3プレイ日記メニューに戻る■
■メガテンメニューに戻る■