第十二話 背徳の拷問歓楽街


 カブキチョウ捕囚所は、がらんとして薄暗い、潰れた病院みたいな建物だった。病院といえば、新宿衛星病院もこんな雰囲気だったな。しんと静まりかえっているのに、見た目は殆ど受胎前のビルと変わらない。ただ人影だけがない事が一層不気味に感じられた。
 連れ歩く仲魔は、ライジュウ、オルトロス、アラハバキの3体。ケダモノ2匹は邪教の館で召喚した新顔で、アラハバキは……うん、なんというかマスコットのようなものだ。スタメンから外した女性陣からすさまじいブーイングを食らったが、俺の美的センスはそんなにおかしいんだろうか。じっと目の前の遮光器土偶を見つめてみる。俺の視線に、恥じらいながら両手を回すアラハバキ。……表情が分かってしまうあたりに問題がある気がしてきた。鬱だ。
 聞いた話によると、ここはマントラ軍残党のスラムと化しているのだそうだ。血気盛んなマントラの連中が、こんな陰気くさいビルで何をしていると言うのだろう。ちょうど玄関口に思念体が突っ立っていたので訪ねてみる事にする。そこのアンタ、ここはどういった場所なんだ?
 ──なになに。マネカタどもをわんさと捕らえている捕囚所だと。
 それは分かっているが、そのマネカタらしきカゲは何処にも見当たらないぞ? 疑問符を一杯に浮かべてみるが、思念体はニヨニヨしてるだけでそれ以上は教えてくれなかった。
 仕方ない、ぼちぼち勇が来てないか確かめて行くとするか。
 床には壊れたディスプレイや機材が散乱しているので、足の踏み場を選びながら散策を開始する。
 入り口から正面は、幅のある通路が前方に伸び、左右の壁には扉がきれいに並んでいる。
 俺は初見の選択肢は常に左を選ぶ事にしているので(いわゆる左手の法則というやつだ)、左側から調べるつもりで足を向けた。

 ────て
 ──……蜃気楼に……って──

 ……? いま、何か聞こえたような……
 立ち止まって耳を澄ます。

 ──ミズチが……蜃気楼を使ってボク達を閉じ込めてるんです……
 ──誰か助けに来て……!
 
 どこからともなく耳に響く、切実な声。
 辺りを見回すが、声の主らしきものは見当たらない。目の前の扉を開けて内部を覗き込む。窓の無い無機質なコンクリの小部屋で……中には、誰もいない。
 俺は発生源をつきとめるべく、次から次に扉を開いていった。しかし、その通路にあった部屋の全てを確認しても、動くものは見つからなかった。
 ……閉じ込められてるって、何処に閉じ込められてるんだ?
 声の出所が気になったが、この場にとどまっても何の解決にもなりそうに無い。俺は通路の先へと行ってみる事にした。
 向かってすぐの突き当たりに差し掛かると、肌にチリチリした感覚が走る。悪魔の発する妖気が、右側の廊下から感じられるのだ。俺は警戒しながら壁に身を寄せ、曲がり角の向こう側に視線を這わせた。

「さーて、蜃気楼の中にマネカタどもでもいたぶりに行くかあ」

 廊下に踊る、蛇の腹……半人半蛇の悪魔ナーガだ。ナーガが奥の行き止まりで、何やら壁に操作をしている。その様子を見張っていると、そのうちナーガの姿は蜃気楼のように掻き消えていった。
 どうやら何か仕掛けがあるらしいな。ナーガの消えた行き止まりへと駆け寄ってみる。
 行き止まりには、壁一杯に、巨大な額縁のような装置がはまり込んでいた。枠の内側はもやもやとした渦が巻き、虹色や乳白色に輝いている。
 恐る恐る手を伸ばし触れてみるが、何の反応もない。そういえばナーガは何かを懐から取り出していた気がする。この不思議な壁は、鍵がなければ動作しない装置なのだろう。
 謎の声やナーガの話したいた事から察するに、このカブキチョウ捕囚所の秘密を解くヒントは「蜃気楼」にありそうだ。恐らく、勇の言っていた予言者とやらも蜃気楼の中に囚われているに違いない。とすると、さっきのナーガからこの装置の動かし方を聞きだす必要があるな。
 どこに消え去ったのかは見当つかないが、マネカタの居場所なら、さっきの声の聞こえた通路がそうだろう。姿が見えないのについては、あとでどうにかする方法を考えることにする。
 俺はドアの立ち並ぶ通路へと急いで戻った。さて、声の聞こえた場所はどこだったかな。

 ──ホラホラホラホラッ!! 頑張らねえと裂けちゃうぞー!

 ……これは……ナーガの声だな。裂けるって、何が?
 一体ナニを頑張らされているんだ、マネカタ達は。

 ──止めて欲しいか? 止めて欲しいか?
 ──……イヤだね!! ヒャーッハッハッハッ!!

 ナーガのヤケにハイなせりふの背景で、絶叫がこだまする。
 オイ、洒落にならないぞこの声。絶対夢に出るって。鬱だ。

 ──ぎゃーーーーーーーー!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いです!!

 頑張れ、負けるな! いや、無理だよな、マネカタだし。
 これはあれか、もし何らかの手段で蜃気楼の中にたどり着けたら、あんなトコやこんなトコが裂けたマネカタを発見することになるのか。鬱な展開だ。
 もっとも、どうにも手が出せない現状では悶絶☆絶叫ショーの終了を待つしかない様だ……

 ──……ふぅ。今日はこのぐらいで勘弁してやるか。
 ──オレ様はコレを持ってるから、いつでも蜃気楼の中に来れるぞぉ?
 ──……じゃあな、また楽しもうぜ。

 目には見えないが、ナーガの気配が去って行くのを感じた。
 出入り口が一つしかないとは考えがたいが、さっきの行き止まりが怪しいな。ナーガが戻っていないか確かめるべく、謎の装置の元へ向かう。
 ……運がいい。曲がり角を過ぎたところで、ヤケにすっきり顔の半蛇と鉢合わせした。

「なんだキサマはっ! もしや、キサマがあの……!?」

 “あの”なんだ? 名前が知れ渡るような事をした記憶はないんだが……ま、まさか“誘惑に弱いウツダ”とか、“バイブ・カハにフラれまくり男”“体力ピクシー以下”とか、そんな不名誉な噂が流れちゃいないだろうな!? もしそうだとしたら、こいつを生かしておくワケにはいかない。コレとやらと一緒に命も頂かなければ。

「うぬぬ、ここはオレたち元マントラ悪魔の歓楽街だ! ニヒロ攻めの武勇伝なんて、拷問プレイで帳消しにしてやる!」

 歓楽街って……確かにカブキチョウと言えば歓楽街だが、この四角いコンクリハウスでひたすらマネカタを相手にするのが歓楽と言えるのだろうか? 灰色の日常としか思えない……いかん、同情の念に涙腺が緩む。涙は出ないが。
 と、さすが血の気の多いマントラ悪魔。棒立ちしている間に、容赦なく槍の一撃を放ってくる。よっぽど俺を痛めつけたくてたまらないらしい。
 血で血を洗う闘争は嫌いじゃないが、拷問プレイはちょっとな……どっちかと言うと俺は、互いの拳を交差させながら顔面に叩き込むとかそういうのが趣味であって、倒錯した世界の住人はご遠慮いただきたい。
 というわけで正気にカエレ!! 俺は手近な仲魔を奴のドタマに投げつけてやった。ケダモノ二匹がぶつかったところにアラハバキの体当たりを食らい、ナーガは頭から血を流して倒れる。
 どうやら拳で語り合うには実力が足りなかったようだ。
 気絶しているところ悪いが、装置の鍵を探させてもらおう。
 と、俺の視界の端で、起き上がったアラハバキがなにやら手でもてあそんでいる。

「ムッフッフ これはいいヒカリモノであるな。我のたなごころにピッタリと収まるぞ」

 ぴかぴか光る目の真ん中に、マハザンの石をぶちこむ。粉々に砕け散るアラハバキ。
 そういえば宝探しスキルを持ってたんだ、こいつは。目の離せない奴め。
 アラハバキの破片の中を手探りすると、ハマグリを象った宝玉が転がり出た。これが蜃気楼の扉を開く鍵に違いない。俺は玉を拾い上げて、光が渦巻く壁の装置へと歩み寄る。
 これを──こうだったかな?
 記憶の中のナーガの動作をトレースするように、俺は玉を前方にかざした。

 装置は煙を吐き出し始めた。
 やがて視界が真っ白に埋め尽くされ……

 色彩の無い蜃気楼の世界が、俺たちの前に姿を現した。


<プレイヤーのつぶやき>
ここだけメモが非常に適当だったため、更新が遅れてしまいました^^; これからはピッチ上げていきますよー。
カブキチョウに来る前に仲魔の増員を図った結果、新顔のライジュウとオルトロスがスタメン入り。偶然にも捕囚所のMOBは水属性の敵が多かったので、オルちゃんがファイアブレスで大活躍です。
中BOSSのナーガはとりたてて攻略はないですね、通常戦闘にもバカスカ出てきますし……オート殴りで主人公の手番が来る前に撃破です。

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